- JAMA 1990:平均90歳の入所者10名が8週間で筋力174%増(対照群なし)。NEJM 1994:100名・対照群ありで113%増、歩く速さは11.8%増。
- 50歳以上のまとめ:筋力は種目ごとに24〜33%増、除脂肪量は1.1kg増。年齢が高いほど増え方は小さい。
- 121試験6,700名:筋力への効果は大きい(効果量0.84)が、日常の動作の総合には小さい(0.14)。
- 骨は「増やす」より「減らさない」。43試験のまとめでは、骨折の数への効果は確かめられていない。
- 転倒は運動で23%減る(確実性は高い)。主役はバランスと動作の練習で、筋トレが主体のプログラムの効果は分かっていない。
- 胸の痛み・めまい・高い血圧・治療中の病気がある人は、始める前に相談。運動中の胸痛・動悸・冷や汗はその場で中止。
よく言われていること——筋トレは若いうちのもの。歳をとってから始めても遅い。
研究が示していること——平均90歳の施設入所者が、8週間で筋力を平均174%増やしました。ただし参加者は10名で、比べる相手のいない研究です。4年後に100名で対照群を置いて確かめた試験では、伸びは113%でした。骨密度は、1年の筋トレで「増えた」というより「減らなかった」。そして転倒を減らす証拠がいちばん固いのは、筋トレ単独ではなく、バランスと動作の練習です。
90歳から始めた人たちに、何が起きたか
この分野でいちばん有名な研究から始めます(Fiatarone et al., 1990, JAMA)。
対象は、ナーシングホームに入所している虚弱な高齢者10名。年齢は90±1歳です。この方々に、8週間の高強度レジスタンストレーニング(重りや器具で負荷をかける筋力トレーニング)を行ってもらいました。
「高強度」です。軽い体操ではありません。
| 測定項目 | 8週間後の変化 |
|---|---|
| 筋力 | 平均174% ± 31% 増加(訓練を完了した9名。±は標準誤差) |
| 大腿中央部の筋断面積 | 9.0% ± 4.5% 増加 |
| タンデム歩行(かかととつま先をつけて一直線に歩く)の速度 | 48% 改善 |
174%増というのは、元の約2.7倍になったということです。もともと弱っていたぶん伸びしろが大きかったとはいえ、90歳の体が8週間で変わったという事実は変わりません。
著者らの結論はこうです。「高負荷のウエイトトレーニングは、96歳までのナーシングホーム入居者の筋力・筋のサイズ・移動の能力を、偶然とは考えにくい幅で(統計的に有意に)向上させる」。
96歳。この数字を、覚えておいてください。
10名で、比べる相手がいない。その弱点を埋めた試験
この研究には弱点があります。人数が10名で、筋トレをしない人たち(対照群)と比べていません。同じ筆頭著者が4年後、その弱点を埋める試験を発表しました(Fiatarone et al., 1994, The New England Journal of Medicine)。
対象は虚弱な施設入所者100名(女性63名・男性37名)。平均87.1歳、最年少72歳、最高齢98歳です。筋トレをする・栄養補助を飲む・両方・どちらもしない、の4つに無作為に(偶然に任せて)分け、10週間続けました。94%が最後まで参加しています。
| 測定項目 | 筋トレをした人 | しなかった人 | P値 |
|---|---|---|---|
| 筋力 | 113% ± 8% 増 | 3% ± 9% 増 | P < 0.001 |
| 歩く速さ | 11.8% ± 3.8% 増 | 1.0% ± 3.8% 減 | P = 0.02 |
| 階段を上る力 | 28.4% ± 6.6% 増 | 3.6% ± 6.7% 増 | P = 0.01 |
| 太ももの筋肉の断面積 | 2.7% ± 1.8% 増 | 1.8% ± 2.0% 減 | P = 0.11 |
P値は「本当は差が無いのに、偶然これだけの差が出る確率」の目安です。慣例では0.05を下回ると、偶然とは考えにくい差とみなします。筋力・歩く速さ・階段は下回りました。筋肉の太さは0.11で、偶然の範囲を出ていません。
読み方は3つです。対象を100名に増やし、期間を10週にして比べる相手を置いた試験では、筋トレをした人の伸びは113%、しなかった人は3%でした。それでも元の2倍を超えています。そして筋力ほどには、歩く速さは伸びていません(11.8%)。なお栄養補助だけでは、筋力も虚弱も改善しませんでした。動かさなければ、飲んでも変わらなかったということです。
なぜ、筋力が落ちると困るのか
90歳の研究は、訓練の前の状態についても報告しています(Fiatarone et al., 1990)。参加者の大腿四頭筋(太ももの前側)の筋力は、歩行にかかる時間と負の相関を示していました(r = −0.745)。相関係数 r は、−1に近いほど「片方が大きいと、もう片方は小さい」という関係が強いことを表します。筋力が弱い人ほど、歩くのに時間がかかっていたということです。
そして論文の冒頭には、こう書かれています。虚弱な高齢者によく見られる筋機能の低下と移動能力の障害は、転倒・骨折・機能的な自立の喪失のリスクを高める。
筋力は、見た目やスポーツの話ではありません。自分の脚で歩き続けられるかどうかの話です。ただし上の相関は10名の、ある一時点の関係です。筋力を上げれば歩行が戻る、と言うには、次の節のような介入の試験が要ります。
施設の90歳ではなく、ふつうの中高年ではどのくらい伸びるのか
90歳の施設入所者は、極端な例です。50歳以上を対象にした研究をまとめた分析が2本あります。同じ研究グループによるもので、1本は筋力、もう1本は筋肉の量を見ています。
筋力のほうは、47の研究・合わせて1,079名をまとめました(Peterson et al., 2010, Ageing Research Reviews)。4つの種目すべてで、筋力は伸びていました。
| 種目 | 筋力の伸び(平均) |
|---|---|
| レッグプレス(脚で押す) | 29% ± 2% |
| チェストプレス(胸で押す) | 24% ± 2% |
| ニーエクステンション(膝を伸ばす) | 33% ± 3% |
| ラットプルダウン(上から引く) | 25% ± 2% |
重さに直すと、種目によって9.8〜31.6kgの増加です。174%ではなく、2〜3割。これが、50歳以上を広く集めたときの相場です。強度の高いトレーニングほど伸びが大きい、という関連も出ています。ただし研究ごとのばらつきは大きく、無作為に分けていない研究も含まれています。
筋肉の量のほうは、49の研究・合わせて1,328名です(Peterson et al., 2011, Medicine & Science in Sports & Exercise)。除脂肪量(体重から脂肪を除いた重さ。筋肉の量の目安)は、平均1.1kg増えていました(95%信頼区間0.9〜1.2kg。信頼区間は、本当の値がこの幅に入るとみてよい範囲です)。トレーニングの量が多いプログラムほど増え方が大きく、年齢が高いほど増え方は小さくなっていました。著者らは「人生の早い時期に始めるほうが、効果は高いかもしれない」と書いています。
遅すぎることはない。けれど、早いほうが得です。両方とも本当です。
筋力は大きく伸びる。暮らしの動作は、少しだけ
では、伸びた筋力は暮らしを楽にするのか。コクラン・レビュー(医療の効果を決まった手順で評価する国際的な取り組み)が、121の試験・6,700名をまとめています(Liu & Latham, 2009, Cochrane Database of Systematic Reviews)。ほとんどの試験は、週2〜3回・高い強度の筋トレでした。
ここで「効果量」という数字が出てきます。2つのグループの差を、ばらつきの大きさで割って比べやすくしたものです。目安として、0.2で小さい、0.5で中くらい、0.8で大きいと読みます。
| 測ったもの | 結果 | 読み方 |
|---|---|---|
| 筋力 | 効果量0.84(95%信頼区間0.67〜1.00) 73試験・3,059名 | 大きい(著者らも「大きい」) |
| 身体の能力(日常の動作の総合) | 効果量0.14(0.05〜0.22) 33試験・2,172名 | 小さい(著者らも「小さいが偶然ではない」) |
| 歩く速さ | 秒速0.08m速くなる(0.04〜0.12) 24試験・1,179名 | 著者らは「控えめ」と評価 |
| 椅子から立ち上がる動作 | 効果量−0.94(−1.49〜−0.38) かかる時間が短くなる向き。11試験・384名 | 大きい(著者らは「中くらいから大きい」) |
筋力は大きく伸びます。立ち上がりも良くなります。けれど日常の動作をまとめた指標では、効果は小さい。筋力が伸びた分だけ暮らしが楽になる、という計算にはなっていません。
害についても書かれています。関節の痛みや筋肉痛は、きちんと記録した研究の多くで報告されていました。重い有害事象はまれで、運動が直接の原因とされたものはありません。ただし著者らは、有害事象の記録そのものが不十分だとして、病気のある人にそのまま当てはめることに注意を促しています。
骨はどうか
加齢とともに気になるもうひとつが、骨です。ここにも1年間の無作為化比較試験があります(Nelson et al., 1994, JAMA)。
対象は閉経後の白人女性40名(50〜70歳)。全員に運動習慣がなく、エストロゲン(女性ホルモン)が減った状態でした。米国ボストンの大学の運動実験室で、週2日・5種目の高強度筋力トレーニングを1年間行う群(20名)と、行わない対照群(19名)を比べています。最後まで参加したのは39名です。
| 測定部位 | 筋トレ群 | 対照群 | P値 |
|---|---|---|---|
| 大腿骨頸部の骨密度 | +0.9% ± 4.5% | −2.5% ± 3.8% | P = .02 |
| 腰椎の骨密度 | +1.0% ± 3.6% | −1.8% ± 3.5% | P = .04 |
| 全身の骨ミネラル量 | 0.0% ± 3.0%(維持) | −1.2% ± 3.4%(減少傾向) | P = .12(偶然の範囲) |
注目すべきは、差の付き方です。筋トレ群は「ほんの少し増えた」程度ですが、対照群は減っています。1年間で大腿骨頸部(脚の付け根)の骨密度が2.5%減少しました。
つまりこの研究が示しているのは、「筋トレで骨が強くなる」というより、「何もしなければ減っていくものを、止められる」ということです。
同時に、筋量・筋力・動的バランスも、筋トレ群では増加し、対照群では低下していました。著者らの結論は、高強度の筋力トレーニングは、閉経後の女性において骨密度を保ちながら筋量・筋力・バランスを改善する、効果的で実行可能な手段である、というものです。
すでに骨が弱い人で試した試験
Nelson らの対象は、骨の弱さで選ばれた人ではありません。骨量が低い(若い成人の平均と比べた指標であるTスコアが−1.0未満)閉経後の女性101名で試したのが、LIFTMOR試験です(Watson et al., 2018, Journal of Bone and Mineral Research)。年齢は65±5歳でした。
筋トレ群(49名)は、指導者の付く教室で週2回・30分。持ち上げられる最大の重さの85%を超える負荷で、5回を5セット。これに着地の衝撃を加える運動を組み合わせ、8か月続けました。対照群(52名)は、自宅での軽い運動です。
| 測定部位 | 高強度の群 | 自宅で軽い運動の群 | P値 |
|---|---|---|---|
| 腰椎の骨密度 | +2.9% ± 2.8% | −1.2% ± 2.8% | p < 0.001 |
| 大腿骨頸部の骨密度 | +0.3% ± 2.6% | −1.9% ± 2.6% | p = 0.004 |
向きは Nelson らと同じです。高強度の群は保つか少し増え、軽い運動の群は減りました。実施率は高強度の群で92%、有害事象は軽い腰の筋肉のけいれんが1件です。ただし著者ら自身が、厳重な監督のもとで、ほかに病気のない人を対象にした結果だと断っています。骨が弱い人が一人で重いバーベルを担いでよい、という研究ではありません。
まとめると効果は小さく、骨折が減るとは示されていない
試験を広く集めると、数字はもっと地味になります。閉経後の女性を対象にした43の試験・4,320名のコクラン・レビューです(Howe et al., 2011, Cochrane Database of Systematic Reviews)。脚の筋トレは、大腿骨頸部の骨密度の変化率を対照群より1.03ポイント良くしていました(95%信頼区間0.24〜1.82)。腰椎にいちばん効いたのは複数の運動の組み合わせで、3.22ポイントです(1.80〜4.64)。
肝心の骨折の数には、効果が確かめられませんでした。オッズ比(1なら差なし、1より小さければ減る向き)は0.61ですが、信頼区間は0.23〜1.64。「減る」から「増える」までをまたいでいます。著者らは運動の効果を「比較的小さいが、おそらく重要」と評価し、集めた試験の報告の質が低いことも認めています。
骨粗鬆症と言われている方は、運動をどう組み込むかを主治医と決めてください。筋トレは骨密度の低下を鈍らせる手段で、骨折を防ぐと証明された治療ではありません。
どのくらいの強度が必要なのか
ここまで「高強度」という言葉が繰り返し出てきました。では、軽い運動では駄目なのでしょうか。
65歳以上を対象に、強さや量の違う筋トレを直接比べた無作為化比較試験だけを集めた分析があります。29件の試験・1,313名(各試験の平均年齢は65〜81歳)です(Steib et al., 2010, Medicine & Science in Sports & Exercise)。
| 比較 | 効果量 | 読み方 |
|---|---|---|
| 高強度 vs 低強度(最大筋力) | 0.88(95%信頼区間 0.21〜1.55) | 高強度が有利。効果量は「大きい」 |
| 高強度 vs 中強度(最大筋力) | 0.62(0.22〜1.03) | 高強度が有利。効果量は「中くらい」 |
| パワートレーニング vs 通常の筋トレ(筋パワー) | 1.66(0.08〜3.24) | パワー系が有利。ただし信頼区間が非常に広い |
結果は2つに分かれます。
最大筋力を上げたいなら、高強度のほうが有利です。強度が高いほど伸びる、という段階的な関係でした。
しかし——立ち上がる、歩く、バランスを保つといった動作の改善は、トレーニングの強度によらず見られました。
これは重要な区別です。「重いものを持ち上げられるようになりたい」なら高強度が要る。「日常生活を楽にしたい」なら、強度はそこまで決定的ではない。著者らも「より高い強度は最大筋力の改善には優れているが、高齢者の機能的パフォーマンスには必ずしもそうではない」と述べています。
また、素早く力を出すパワートレーニングが、筋パワー(力を素早く出す能力)と動作の改善に、通常の筋トレより有効だったことも示されています。ただし筋パワーの効果量の信頼区間は0.08〜3.24と非常に広く、推定の精度は高くありません。
「重くなくても足りる」という別のまとめ
別の研究グループは、もう少し軽い負荷の肩を持っています(Csapo & Alegre, 2016, Scandinavian Journal of Medicine & Science in Sports)。15の研究・448名(平均67.8歳)で、重い負荷(最大の約80%)と軽〜中くらいの負荷(約45%)を比べました。
筋力の伸びは重い負荷のほうが大きい傾向でしたが、効果量は0.430で、偶然の範囲を出ていません(P = 0.060)。こなした仕事の量をそろえた研究に絞ると、差は0.297まで縮みます(P = 0.003)。こちらは偶然とは考えにくい差ですが、大きさは「小さい」です。著者らも、仕事の量をそろえると効果量はかなり小さくなる、と書いています。筋肉の太さの差は0.056〜0.136と、さらにわずかでした。
著者らの結論は、回数を十分にこなせば、従来勧められてきたより軽い負荷でも、高齢者の筋力はしっかり伸びうる、です。Steib らと食い違うのは向きではなく、差の大きさです。重いほうが少し有利。ただし軽くても、回数で埋められる。重い重りが怖い人は、そこから始めて構いません。
握力は、思っているより多くを語る
「筋力が大事」と言われても、実感が湧きにくいかもしれません。しかし握力という単純な指標が、その後の健康を予測するという大規模な研究があります。
17か国・139,691名を解析したPURE研究では、握力が5kg低いごとに、総死亡のハザード比は1.16(95%信頼区間 1.13〜1.20)でした(Leong et al., 2015, The Lancet)。一方で、転倒によるけがや骨折とは、偶然を超える関連が見られませんでした。
英国バイオバンクの40〜69歳・502,293名を追った研究でも同じ向きの関連が出ており(Celis-Morales et al., 2018, BMJ)、男女別の数字は握力は寿命を予測するのかで扱いました。
ただし、読み方に注意
これは観察研究です。「握力を鍛えれば死亡率が下がる」という意味ではありません。握力は全身の筋力や健康状態を映す鏡として働いている可能性があり、握力そのものが原因だとは言えません。PURE研究の著者らも、筋力を上げれば死亡が減るのかは、これから試す必要があると書いています。
それでも実用的な価値はあります。握力は測れます。健診や施設の握力計で年に一度でも測っておけば、変化に気づけます。予測の上乗せがどのくらい小さいか、因果がどこまで分かっているかは、握力は寿命を予測するのかで詳しく扱いました。
日本を含むアジアの基準では、どこからが「弱っている」のか
握力の研究は17か国と英国のものでした。体格の違う集団の数字を、そのまま自分に当てはめることはできません。アジアには、アジアの研究をもとにした基準があります(Chen et al., 2020, Journal of the American Medical Directors Association)。日本の研究者も加わるアジア・サルコペニア・ワーキンググループの、2019年の合意です。
サルコペニアとは、加齢で筋肉の量が減り、そのうえ筋力か身体の動きが落ちた状態を指します。基準は次のとおりです。
| 見るもの | 「低い」とされる線 |
|---|---|
| 握力 | 男性28kg未満、女性18kg未満 |
| 歩く速さ(6mを歩く) | 秒速1.0m未満 |
| 椅子から5回立ち上がる時間 | 12秒以上 |
| ふくらはぎのいちばん太いところ(最初の拾い上げ用) | 男性34cm未満、女性33cm未満 |
この合意は「サルコペニアの可能性あり」という区分も新しく作りました。筋肉の量を機械で測らなくても、筋力か動作のどちらかが低ければ当てはまります。かかりつけ医や地域の健康づくりの場で、早めに生活を見直すための区分です。治療の柱は運動と栄養だ、とも書かれています。
なお、先ほどの英国の研究が「筋力低下」とした線は、男性26kg未満・女性16kg未満でした(Celis-Morales et al., 2018)。線は集団と目的で変わります。
日本の高齢者では、どのくらいの人が当てはまるのか
この基準を日本人に当てはめた追跡研究があります(Kitamura et al., 2021, Journal of Cachexia, Sarcopenia and Muscle)。群馬県草津町と埼玉県鳩山町の健診を受けた65歳以上1,851名(平均72.0歳)を、5.8年追いました。
サルコペニアに当てはまったのは、男性の11.5%、女性の16.7%。当てはまった人は、亡くなる率が男性で2.0倍(95%信頼区間1.2〜3.5)、女性で2.3倍(1.1〜4.9)でした。新しく介護保険の認定を受ける率も、男性1.6倍(1.0〜2.7)、女性1.7倍(1.1〜2.7)です。
見落とせない結果がもうひとつあります。筋肉の量だけが少なく、握力も歩く速さも保たれている人では、死亡(1.2倍、0.8〜1.9)も介護認定(0.9倍、0.6〜1.3)も、偶然の範囲を超えて増えてはいませんでした。逆の組み合わせも調べられています。筋肉の量は保たれていて、握力か歩く速さだけが低い人です。死亡は増えておらず(1.3倍、0.8〜2.2)、介護認定は増える傾向(1.4倍、1.0〜2.0)にとどまりました。偶然を超えて危険が高かったのは、筋肉の量の少なさと、力か動作の低さが重なった人でした。握力と歩く速さは、筋肉の量を機械で測らなくても調べられる最初の目安です(Chen et al., 2020)。健診を受けに来られる人たちの数字であり、観察研究である点は握力の研究と同じです。
椅子から5回立ち上がるのに12秒以上かかる。ペットボトルの蓋が開けにくくなった。そう感じたら、推測で済ませず、次の健診やかかりつけ医で握力と歩く速さを測ってもらってください。ふらつく方は、立ち上がりの秒数を一人で測らないでください。
転倒予防——ここは確実性の高い証拠がある。ただし主役は筋トレではない
運動の研究には、偏りの心配が残る試験が少なくありません。次に紹介するレビューも、集めた試験の大半に何かしらの偏りの心配がある、と自分で書いています。
それでも転倒予防については、結論がはっきりしています。コクラン・レビューが、自宅で暮らす60歳以上を対象にした無作為化比較試験を108件・23,407名・25か国ぶん集めました(Sherrington et al., 2019, Cochrane Database of Systematic Reviews)。参加者は平均76歳、77%が女性で、日本の試験も入っています。このうち運動と対照を比べたのは81試験・19,684名です。
| 運動の種類 | 転倒の回数の変化 | 証拠の確実性 |
|---|---|---|
| 運動(すべての種類) | 23%減(率比 0.77、95%信頼区間 0.71〜0.83) 12,981名・59研究 | 高い |
| バランス・機能訓練 | 24%減(率比 0.76、0.70〜0.81) 7,920名・39研究 | 高い |
| 複数の種類の組み合わせ(多くはバランス・機能訓練に筋トレを足したもの) | 34%減(率比 0.66、0.50〜0.88) 1,374名・11研究 | 中くらい |
| 太極拳 | 19%減(率比 0.81、0.67〜0.99) 2,655名・7研究 | 低い |
| 筋トレが主体のプログラム | 分からない(率比 1.14、0.67〜1.97) 327名・5研究 | 非常に低い |
率比は、運動をしない群の転倒の回数を1としたときの比です。0.77なら23%少ない、と読みます。「確実性が高い」は、今後研究が増えても結論が変わる見込みが小さい、という意味です。それが付いたのは、運動全体と、バランス・機能訓練でした。
そして、この記事の主題である筋トレです。筋トレが主体のプログラムで転倒が減るかどうかは、分かっていません。率比1.14は「増えた」ように見えますが、区間は0.67〜1.97。調べたのが5研究・327名しかなく、何も言えないのです。効かないと示されたのではありません。調べ足りていません。
どのくらいの差なのか
レビューは、実感しやすい形にも換算しています。1年間で1000人あたり850回の転倒が起きるという想定に基づくと、運動を行った群では195回少ない(95%信頼区間 144〜246回)計算になります。
「転んだ人の数」で見ても、運動で15%減っていました(リスク比0.85、0.81〜0.89。13,518名・63研究、確実性は高い)。1000人のうち480人が1年に1回は転ぶという想定で、72人少ない(52〜91人)計算です。
誰に、どんな形で効くのか
サブグループ解析(条件で分けた比較)から、次のことが分かっています。
- 転倒リスクの有無で、効果に差の証拠はなかった。リスクが高い人だけのものではありません。
- 75歳以上かどうかでも、差の証拠はなかった。75歳以上の試験で率比0.83(0.72〜0.97)、75歳未満で0.75(0.69〜0.82)です。
- 集団で行うか個別で行うかでも、差の証拠はなかった。集団で0.76、個別で0.79。グループレッスンでも構いません。
- ただし医療専門職(理学療法士など)が提供した試験では、効果がより大きく出ていました。率比0.69(0.61〜0.79)に対し、医療職でない指導者では0.82(0.75〜0.90)。どちらでも転倒は減っています。
確実性が高い形で効いたのは、「バランスと機能の訓練」でした。重い物を持ち上げる訓練ではありません。レビューの分類では「歩行・バランス・動作の訓練」。歩く、バランスを取る、立つ・座るといった、日常の動作そのものに近い練習です。転倒を防ぎたいなら、重さより動きです。筋トレは、それに足すものと考えてください。
日本の公的な目安も同じ組み立てです。厚生労働省の「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」は、高齢者に2つを勧めています(厚生労働省, 2024)。筋力・バランス・柔軟性など多要素な運動を週3日以上。そして筋トレを週2〜3日。筋トレは、多要素な運動の中に含めて数えて構いません。
骨折まで減るのか——ここは割れている
転倒が減れば骨折も減るはず、と考えたくなります。同じレビューでは、転倒による骨折をした人は運動で減るかもしれない、という結果でした(リスク比0.73、0.56〜0.95。4,047名・10研究)。ただし確実性は「低い」です。
逆向きの結果もあります。英国イングランドの63の診療所から70歳以上9,803名を選んだ大きな試験です(Lamb et al., 2020, The New England Journal of Medicine)。郵送の助言だけの群と、助言に加えて郵送の問診で転倒リスクの高い人を拾い、運動に誘う群などを比べました。18か月の骨折の率は、運動に誘った群で下がりませんでした(率比1.20、95%信頼区間0.91〜1.59)。著者らの結論は、郵送の助言だけの場合より骨折は少なくならなかった、です。
これは「運動が効かない」という結果ではありません。運動に誘う群と多面的な予防の群を合わせると、問診を返した5,779名のうち、リスクが高いとして誘われたのは2,153名(37%)だけです。試したのは郵送で拾って誘う、という配り方でした。教室の中で効く運動も、地域に薄く配ると骨折の数までは動かせなかった。これは著者の言葉ではなく、試験の組み立てからのこの記事の読みです。
害はどうか。レビューで有害事象を報告していたのは27試験(6,019名)。うち14試験では何も起きていません。重いものは1つの試験の2件(骨盤の疲労骨折と、鼠径ヘルニアの手術)で、残りは主に筋肉や関節の軽いものでした。ただし運動群と対照群の両方できちんと見張っていた試験は1件だけです。
始めるときに、知っておくとよいこと
1. 遅すぎることはありません。90歳の虚弱な入所者が8週間で筋力を174%伸ばしています。対象を100名に増やし、期間を10週にして比べる相手を置いた試験では、筋トレをした人の伸びは113%、しなかった人は3%でした。
2. 目的で強度を決めてください。日常生活を楽にしたいなら、重さにこだわる必要は薄い。動作の改善は強度によらず見られました。
3. 骨については「増やす」より「減らさない」。1年で対照群は2.5%減っていました。維持できること自体が成果です。
4. 週2回でも結果は出ています。Nelson らの研究も LIFTMOR 試験も週2回でした。
5. 転びたくないなら、筋トレだけにしない。確実性の高い証拠があるのは、バランスと動作の練習です。
具体的な入り口は、高齢者の運動についての国際的な専門家の合意に書かれています(Izquierdo et al., 2021, The Journal of Nutrition, Health & Aging)。週2〜3回。最初は1〜2セット、慣れたら2〜3セット。1セットは8〜12回。重さは、1回だけ持ち上げられる最大の30〜40%から始め、70〜80%へ少しずつ上げていきます。同じ筋肉は、少なくとも1日休ませます。
30〜40%は、拍子抜けするほど軽い重さです。それでよいのです。この合意は、とくに最初の時期に注意するよう書いています。小さなけがでも回復に数週間かかり、そこでやめてしまうか、振り出しに戻るからです。
ただし、ここで紹介した高強度の研究はいずれも、施設や大学の実験室、指導者の付く教室で行われています。虚弱な高齢者がいきなり高強度を自己流で始めることは勧められません。始めるときは、次の節の確認をしたうえで、医療機関や運動指導の専門家に相談してください。
トレーニングの量と頻度をどう決めるかについては、筋トレは週何回が正解かで扱っています。合計量が効いており、頻度は好みで選べることが分かっています。続かなくなる時期と理由は、続かない理由の分解にまとめました。
始める前に医師に相談したほうがよいのは、どんな人か
先に、考え方から。米国スポーツ医学会は、運動を始める前の健康チェックの勧告を改めました(Riebe et al., 2015, Medicine & Science in Sports & Exercise)。それまでの基準では医師への紹介が増えすぎ、運動を始める壁になっているおそれがある、と指摘されたためです。新しい基準が見るのは3つ。ふだんどれだけ動いているか。症状や、心臓・代謝・腎臓の病気があるか。やりたい運動がどのくらい強いか。
この3つの中に、年齢そのものは入っていません。同じ文書は、運動はほとんどの人にとって安全で、運動中の心臓の事故の多くには前触れの症状がある、とも書いています。「歳だから、まず病院」ではありません。病気と、症状と、強さで決めます。
日本の資料も同じ組み立てです。厚生労働省のガイドは、事故の危険が高いのは強度の高い運動をするときと、ふだん動いていない人が急にいつも以上に動くときだと整理しています(厚生労働省, 2024)。指導する側に向けた資料ですが、運動を始める前の確認票が載っています。次のどれかに当てはまる方は、始める前に医療機関で相談してください。
- 医師から心臓病や高血圧と言われたことがあり、運動の制限があるかどうか分からない
- ほかに慢性の病気や手術の経験があり、運動の制限があるかどうか分からない
- 飲んでいる薬の中に、運動のとき注意が要るものがあるかどうか分からない
- 安静にしているとき、ふだんの生活、運動中のどれかで、胸の痛みを感じることがある
- めまいでバランスを崩すことがある。または、この1年に意識を失ったことがある
- 運動で悪くなりそうな骨・関節・筋肉の問題がある(1年以内に治ったものを含む)
- 医師から「医学的な監視のもとで運動するように」と言われたことがある
同じ資料には、数字のある目安も書かれています。
- 血圧。診察室で180/110mmHg以上、家庭で160/100mmHg以上の方は、薬で血圧を整えてから始めます。その日の運動前に測って160/100mmHg以上なら、散歩程度まで。180/110mmHg以上なら、休みます。
- 糖尿病。合併症や血糖の状態が分からなければ、かかりつけ医に確かめてから始めます。目の合併症(増殖性網膜症)がある場合や、空腹時血糖が250mg/dL以上や尿ケトン体が中等度以上の陽性など血糖の管理が極端に悪い場合、重い神経障害や壊疽がある場合は、運動そのものが禁忌(してはいけない)とされています。
- 腰・膝・関節。運動で悪くなる問題があるなら、先に医師に相談します。低い強度・短い時間から始め、痛む場所に負担のかからない種目を選びます。
- 薬。血圧の薬の一部は脈拍を変えるので、脈では運動の強さを測れません。血液を固まりにくくする薬を飲んでいる方は、打撲と転倒に注意が要ります。高齢者では、睡眠薬や血圧・血糖を下げる薬が転倒の原因になることがあります。
虚弱だからやめておく、は逆です。先ほどの国際的な合意は、極端に虚弱であっても強めの運動の禁忌にはならず、むしろ虚弱こそ運動を処方するいちばんの理由のひとつだ、と書いています(Izquierdo et al., 2021)。変えるのは、やるかやらないかではありません。見守りの厚さです。
やめる目安、受診する目安
運動中に次の症状が出たら、その場でやめてください(厚生労働省, 2024)。
- 胸の痛み
- 動悸
- めまい、ふらつき
- 冷や汗
- 強い空腹感やふるえ
- いつもと違う強い疲れ
- 関節や筋肉の強い痛み
出かける前の体調確認も勧められています。熱がある。体がだるい。頭痛やめまいがする。少し動いただけで息切れや動悸がする。胸が痛い。足腰の痛みが強い。ひとつでも当てはまる日は、無理に運動せずに休み、必要に応じて医療機関を受診します。
様子を見てはいけない症状もあります。総務省消防庁は、高齢者について「ためらわず救急車を呼んでほしい症状」を挙げています(総務省消防庁, 2025)。胸や背中の突然の激痛。急な息切れ、呼吸困難。冷や汗を伴うような強い吐き気。突然、片方の腕や足に力が入らなくなる。ろれつが回りにくい。急にふらつき、立っていられない。これらは119番です。高齢者は自覚症状が出にくいこともある、と添えられています。判断に迷ったら、救急相談窓口(#7119など)に電話してください。
翌日に出る筋肉痛は、ふつうは別の話です(筋肉痛は乳酸のせいではない)。ただし、翌日の生活に支障が出るほどの疲れが残るなら、強さか量が多すぎます。まず休み、次の回は控えめにしてください(厚生労働省, 2024)。
この記事の限界
- 90歳の研究は参加者10名(完了9名)の小規模な研究です。対照群のない前後比較であり、訓練以外の要因(注目を浴びること、生活の変化)の影響を分離できません。対照群を置いた1994年の試験も、施設入所者100名・10週間の結果です。
- 174%という数字は、もともと非常に弱っていたことの裏返しでもあります。50歳以上をまとめた分析では、伸びは種目ごとに24〜33%でした。すでに運動習慣のある人に同じ伸び率は起こりません。
- 筋力が伸びても、暮らしの動作への効果は小さめです。121試験のまとめで、筋力の効果量は0.84、日常の動作の総合では0.14でした。
- 骨密度の研究は、閉経後の女性だけが対象です。Nelson らは白人女性40名・1年間、LIFTMOR試験は101名・8か月。男性や他の年齢層、より長期については分かりません。変化の標準偏差も大きく(±2.6〜4.5%)、個人差がかなりあります。
- 骨密度の改善幅は0.3〜2.9%です。「骨が丈夫になる」と言える水準ではなく、「減少を止めた」と読むのが妥当です。運動で骨折が減ることは、43試験のまとめでは確かめられていません。
- 研究をまとめた分析の効果量には、信頼区間の広いものがあります(パワートレーニングで0.08〜3.24)。推定の精度に限界があります。
- 握力とサルコペニアの数字は観察研究です。握力を鍛えれば寿命が延びる、という証明ではありません。
- 筋トレが主体のプログラムで転倒が減るかは、分かっていません。転倒の証拠が固いのは、バランスと機能の訓練です。
- ほとんどが外国の研究です。体格、食事、医療や介護の制度が違います。日本人のデータとして使えたのは、草津町と鳩山町の健診受診者1,851名の追跡と、厚生労働省の資料だけです。
- 高強度の試験は、いずれも指導者や研究者の付く環境で実施されています。自己流での高強度トレーニングを推奨するものではありません。
- 相談と受診の目安は、厚生労働省と総務省消防庁の資料、米国スポーツ医学会の勧告から拾ったものです。個別の病気ごとの判断は載せていません。
- 骨粗鬆症、心疾患、関節の痛みなどがある方は、開始前に必ず主治医にご相談ください。ここに書いたことは一般的な情報提供であり、医学的助言ではありません。
出典
- Fiatarone, M. A. et al. (1990). High-Intensity Strength Training in Nonagenarians: Effects on Skeletal Muscle. JAMA. doi:10.1001/jama.1990.03440220053029
- Fiatarone, M. A. et al. (1994). Exercise Training and Nutritional Supplementation for Physical Frailty in Very Elderly People. The New England Journal of Medicine. doi:10.1056/NEJM199406233302501
- Peterson, M. D. et al. (2010). Resistance exercise for muscular strength in older adults: A meta-analysis. Ageing Research Reviews. doi:10.1016/j.arr.2010.03.004
- Peterson, M. D. et al. (2011). Influence of Resistance Exercise on Lean Body Mass in Aging Adults: A Meta-Analysis. Medicine & Science in Sports & Exercise. doi:10.1249/MSS.0b013e3181eb6265
- Liu, C. J. & Latham, N. K. (2009). Progressive resistance strength training for improving physical function in older adults. Cochrane Database of Systematic Reviews. doi:10.1002/14651858.CD002759.pub2
- Nelson, M. E. et al. (1994). Effects of High-Intensity Strength Training on Multiple Risk Factors for Osteoporotic Fractures: A Randomized Controlled Trial. JAMA. doi:10.1001/jama.1994.03520240037038
- Watson, S. L. et al. (2018). High-Intensity Resistance and Impact Training Improves Bone Mineral Density and Physical Function in Postmenopausal Women With Osteopenia and Osteoporosis: The LIFTMOR Randomized Controlled Trial. Journal of Bone and Mineral Research. doi:10.1002/jbmr.3284
- Howe, T. E. et al. (2011). Exercise for preventing and treating osteoporosis in postmenopausal women. Cochrane Database of Systematic Reviews. doi:10.1002/14651858.CD000333.pub2
- Steib, S. et al. (2010). Dose-Response Relationship of Resistance Training in Older Adults: A Meta-Analysis. Medicine & Science in Sports & Exercise. doi:10.1249/MSS.0b013e3181c34465
- Csapo, R. & Alegre, L. M. (2016). Effects of resistance training with moderate vs heavy loads on muscle mass and strength in the elderly: A meta-analysis. Scandinavian Journal of Medicine & Science in Sports. doi:10.1111/sms.12536
- Leong, D. P. et al. (2015). Prognostic value of grip strength: findings from the Prospective Urban Rural Epidemiology (PURE) study. The Lancet. doi:10.1016/S0140-6736(14)62000-6
- Celis-Morales, C. A. et al. (2018). Associations of grip strength with cardiovascular, respiratory, and cancer outcomes and all cause mortality: prospective cohort study of half a million UK Biobank participants. BMJ. doi:10.1136/bmj.k1651
- Chen, L. K. et al. (2020). Asian Working Group for Sarcopenia: 2019 Consensus Update on Sarcopenia Diagnosis and Treatment. Journal of the American Medical Directors Association. doi:10.1016/j.jamda.2019.12.012
- Kitamura, A. et al. (2021). Sarcopenia: prevalence, associated factors, and the risk of mortality and disability in Japanese older adults. Journal of Cachexia, Sarcopenia and Muscle. doi:10.1002/jcsm.12651
- Sherrington, C. et al. (2019). Exercise for preventing falls in older people living in the community. Cochrane Database of Systematic Reviews. doi:10.1002/14651858.CD012424.pub2
- Lamb, S. E. et al. (2020). Screening and Intervention to Prevent Falls and Fractures in Older People. The New England Journal of Medicine. doi:10.1056/NEJMoa2001500
- Izquierdo, M. et al. (2021). International Exercise Recommendations in Older Adults (ICFSR): Expert Consensus Guidelines. The Journal of Nutrition, Health & Aging. doi:10.1007/s12603-021-1665-8
- Riebe, D. et al. (2015). Updating ACSM's Recommendations for Exercise Preparticipation Health Screening. Medicine & Science in Sports & Exercise. doi:10.1249/MSS.0000000000000664
- 厚生労働省 (2024). 健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023(令和6年1月。高齢者版・筋力トレーニングについて・身体活動・運動を安全に行うためのポイント). 厚生労働省 身体活動・運動の推進
- 総務省消防庁 (2025). 救急車を上手に使いましょう——救急車 必要なのはどんなとき?(救急車利用マニュアル、令和7年12月発行). 総務省消防庁 救急車利用マニュアル
さらに詳しく知りたい方へ
- 筋トレは週何回が正解か——健康のためなら週30〜60分で最大のリスク低下でした。
- プロテインの「ゴールデンタイム」はあるのか——加齢とともに、同じ量への反応は鈍くなります。
- 睡眠不足は気合いで補えない——回復に必要なもの。
- 座りすぎは運動で相殺できるのか——20分ごとに2分歩く、という介入の効果。
バランスと機能の訓練を、どこで始めるか。
コクランが「高い確実性」で転倒を24%減らすとしたのは、バランスと機能の訓練でした。ピラティスやヨガはこの領域に近い運動です。高齢者のバランス・転倒リスクに対して実際に何が示されているのかは、一次文献を読み解いた記事をオンザショア立川店のサイトに公開しています(他のアウトカムの記事はこちら)。
ただし、ここで紹介した高強度の研究はいずれも監督下で行われたものです。見てもらうことに意味があるかどうかの判断材料はパーソナルレッスンは必要かにまとめました。
このサイトと上記サイトは、いずれも株式会社エッセンが運営しています。利害関係を明示したうえで、本文では効果を断定していません。持病のある方は開始前に主治医にご相談ください。
この記事のまとめ
- 平均90歳の施設入所者10名が8週間で筋力174%増。対照群を置いた100名(平均87.1歳)の試験では113%増だった。
- 50歳以上をまとめると、筋力の伸びは種目ごとに24〜33%、除脂肪量は1.1kg増。年齢が高いほど増え方は小さい。
- 筋力は大きく伸びるが(効果量0.84)、暮らしの動作の総合への効果は小さい(0.14)。
- 骨は「増やす」より「減らさない」。骨折が減ることは、43試験のまとめでは確かめられていない。
- 転倒は運動で23%減る(確実性は高い)。主役はバランスと動作の練習で、筋トレ単独の効果は分かっていない。
- アジアの基準で握力は男性28kg未満・女性18kg未満が「低い」。握力と歩く速さは、機械なしで測れる最初の目安。
- 胸の痛み・めまい・意識消失の経験、高い血圧、治療中の病気がある人は、始める前に相談を。運動中の胸痛・動悸・冷や汗はその場で中止。
よくある質問
何歳から始めても間に合いますか?
間に合います。平均90歳の施設入所者10名は8週間で筋力を平均174%伸ばし(Fiatarone et al., 1990)、対照群を置いた100名(平均87.1歳)の試験でも113%伸びました(Fiatarone et al., 1994)。ただし50歳以上の49研究のまとめでは、年齢が高いほど筋肉の量の増え方は小さくなっています(Peterson et al., 2011)。
筋トレで骨は強くなりますか?
「強くなる」より「減らさない」です。閉経後の女性40名の1年間の試験では、大腿骨頸部の骨密度は筋トレ群+0.9%、対照群−2.5%でした(Nelson et al., 1994)。43試験のまとめでは、運動で骨折の数が減ることは確かめられていません(Howe et al., 2011)。
重い重りでないと意味がありませんか?
目的によります。65歳以上の29試験では、最大筋力は高強度が有利でしたが(低強度との差の効果量0.88)、立つ・歩くといった動作の改善は強度によらず見られました(Steib et al., 2010)。回数を十分こなせば軽めの負荷でも筋力は伸びうる、というまとめもあります(Csapo & Alegre, 2016)。
筋トレをすれば転ばなくなりますか?
筋トレだけでは分かっていません。108試験のコクラン・レビューで、運動全体では転倒が23%減り、確実性が高かったのはバランスと動作の練習でした。筋トレが主体のプログラムは5研究327名しかなく、効果は不明です(Sherrington et al., 2019)。
始める前に医師に相談したほうがよいのは、どんな人ですか?
心臓病や高血圧などの病気や薬があって運動の制限が分からない人、胸の痛み・めまい・意識消失の経験がある人、運動で悪くなりそうな骨や関節の問題がある人です。診察室で180/110mmHg以上の血圧は、薬で整えてからとされています(厚生労働省, 2024)。判断の軸は、ふだんの活動量・症状と病気・運動の強さの3つです(Riebe et al., 2015)。